「よく進むホイール」と「進まないホイール」の秘密

ロードバイクにおいて、ホイールはパフォーマンスに直結する重要な部品であり、それゆえにアフターマーケットにはじつに多くの高性能(を謳う)ホイールが販売されています。今回の記事ではホイールの良し悪しを見極めるうえで基本となる考え方についてご説明します。

 

ホイールの良否について論じる際に「良く進む」あるいは「あまり進まない」といった表現が基準として用いられます。これらは体感的な印象ですが、その根本にはもちろん技術的な理由があります。

 

ロードバイクのホイールは外周部の「リム」中心部の「ハブ」そのふたつをつなぐ「スポーク」という三種類の部品で構成されています。それぞれに異なる働きがあるので順番に説明していきたいと思います。

 

スポークは一端をハブのフランジと呼ばれる部分に固定し、引っ張られながらリムと結ばれています。スポークのテンション(張力)は調整できるようになっており、テンションを大きくするほどハブとリムが強固に連結され、ホイールの縦剛性がアップします。ただし、テンションを上げ過ぎるとスポークやリムが破断するなどの危険性があるため、ホイールメーカー各社は使用するリムやハブに合わせてスポークのテンションを適切に調整して販売しています。

 

ライダーがペダルを踏むと、そのパワーはクランクによって回転運動へと変換され、チェーンを介して後輪のハブを回転させます。そしてハブの回転力はスポークによってリムへと伝達されます。このとき、仮にスポークのテンションが弱いとどうなるでしょうか? ハブが回転するとスポークがよじれてパワーを一部ロスし、少し遅れてリムを回転させるはずです。こういうときにライダーは反応が鈍く、「進まない」ホイールと感じます。

反対にスポークがギチギチに張ってあればハブの回転力は余すことなくリムへ伝達され、すぐにホイールが回転します。ライダーはペダルを踏んだときにすばやく反応し、「よく進む」ホイールと感じるでしょう。

 

しかし、ホイールの良否はスポークテンションだけでは決まりません。ここにハブの強度(剛性)やハブの幅が絡んできます。

厳密にいえば、先述のスポークテンションというのは「反応の良さ」に寄与するものであって、「よく進む」ことの決定的な要因にはなりません。

ライダーがペダルを踏んで前に進むときには、車体が左右にも振られます。こうしたホイールを捻じるような応力に対抗するには、スポークのテンションと共にハブの強度も高めないと、ペダルを踏んだ分を無駄なく推進力に変換することができないのです。

そして、ハブの幅は走行安定性にも直結します。幅の広いハブは人で例えるなら、足を広げて立っているのと同じです。足を閉じて立っているのと比べ、安定性が高いのは感覚的にお分かりいただけると思います。

 

そして走りの肝になるのはリムになります。

いかに空力をよくするために研究されたリムや、軽量なリムであっても、強度不足やブレーキ熱ですぐに変形してしまうリムでは意味がありません。軽量リムに強度の不安はつきものです。

 

リムの重量がものをいうのは発進加速あるいは中間加速といった局面です。もちろん軽いほど有利です。しかし、一般に軽さと強度は相反関係にあり、完全に両立させることはできません。強度の高いリム・ハブを使用すればどうしても重量が増えてしまいます。そこに強いテンションをかけることができる太くて丈夫なスポークを張り巡らせればホイールの剛性はアップしますが、今度は重くなったホイールを回転させるのに大きな力が必要になります。

強度を落とさずに重量を削り、スポーク形状の工夫などによって最適なテンションを実現する、それが優れたホイールを作るうえでのポイントになります。

 

つまり、よく進むホイールというのは走行時にそれぞれのパーツが捻じれに対して変形しにくく、ライダーのパワーを最大限に伝えると共に、リムが軽量で反応にも優れたホイールということになります。

 

かつて主流だった手組みホイールでは、リムとハブのマッチングやスポークの太さ、本数、張り方、張力をホイール職人が工夫することで剛性と重量のバランスが最適になるようにしていました。

ところが、MAVICが1999年に発表したコンプリートホイール「キシリウム」はこうしたホイールの在り方に革命を起こしました。従来の規格に囚われず、ホイールを「ひとつの部品」として開発し、リム、ハブ、スポークを専用設計したのです。これにより、さらに高次元で剛性と軽さの両立が可能となり、レースでも数々の実績を残しました。

 

完組ホイールが主流となった現在、剛性と軽さに「空力」も重要な要素として加わりましたが、MAVICのホイールはあくまでトータルバランスを重視して開発されています。カタログではとにかく重量(軽さ)に目が行きがちですが、実際に使ってみて「良く進む」と感じるのは、特定の教科だけ満点を取るようなホイールではなく、すべての教科で80点を獲得する総合バランスに優れたホイールなのです。

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ホイールにおける「剛性」と「疲労」の関係