ホイールにおける「剛性」と「疲労」の関係

前回の記事では、よく進むホイールを「パーツが捻じれに対して変形しにくく、ライダーのパワーを最大限に伝えると共に、リムが軽量で反応にも優れたホイール」と定義しました。

しかし、実はよく進むホイールがすべてサイクリストにとって「良い」ホイールとは限りません。どういうことか詳しく解説したいと思います。

 

ライダーの脚力を効率的に推進力へ変換するには、ホイールの剛性、とくに横剛性を高めることが肝要であることは前回の記事でお伝えした通りですが、100㎞、200㎞と一度に長い距離を走行するようなケースでは、敢えて剛性を抑えたホイールの方がライダーが疲労しにくく、最後まで脚力が持続するケースがあります。

こういったお話をすると「なぜ効率的なのに疲労するの?」と疑問を持たれる方が多いのですが、ここでいう疲労とはいわゆるスタミナ切れのことではなく、脚の筋肉の疲労を意味します。

 

高剛性のホイールはペダルを強く踏んでもたわみにくい反面、地面からの反発力がダイレクトにライダーの脚の筋肉や関節へと返ってきます。ロングライドではこうした反発力が脚へのダメージとして蓄積されていき、後半になると脚に力が入らなくなったりします。一方、剛性を抑えたホイールは大きな力を加えるとたわみますが、それがクッションとなって脚への負担を和らげているのです。

いわば短距離用のランニングシューズでマラソンを走るようなもの。ロングライドにおいて、あえて剛性の低いホイールの方が、最終的に速く楽に走れるケースもあるのです。

高剛性のフルカーボンホイールというのは、強靭な脚をもつプロサイクリストがコンマ1秒でも速く走ってレースに勝つことを目的に作られたものです。当然そういったホイールがすべてのサイクリストにとって最高とは限りません。ライダーのパフォーマンスやシチュエーション等、ニーズが各々まったく異なるからです。

 

したがって安価なホイール=低性能なエントリ―モデル、高価なホイール=高性能なエキスパートモデルというのは誤った認識です。マヴィックのラインナップは約4万円から50万円ぐらいの価格帯で形成されていますが、単純な松竹梅ではなく、ライダーの用途に応じて適切な剛性が選べるように作り分けられているのです。

 

スポーツサイクル文化の成熟したヨーロッパでは、ユーザーもそのことをよく熟知しています。例えば1万人近いアマチュアサイクリストがツール・ド・フランスと同じコースを走る一大レースイベント「エタップ・デュ・ツール」において、プロに近いスキルをもつ上位グループはプロと同じ機材を使用していますが、そうでないサイクリストは敢えて剛性を抑えた機材を使っています。自分の技量にあった機材をクレバーにチョイスしているのです。

「よく進むホイール」と「進まないホイール」の秘密

ホイールメンテナンスに関して